栃木県/大口 尚孝 様

《審査員からのコメント》

雪を解かす力は「雨」だった! 雪国北陸ならではの着眼・発想を高いレベルで具現化した飯田さん。屋上全面にダムを設え、その雨水を貯水タンクに導いて、位置エネルギーの水圧で散水し、雪解け水に活用する…。その大胆な行動力に賞賛を! 凍結を防ぐ二重構造の雨樋、配管を黒塗りした太陽熱利用のフェンスダムなど、効果的な融雪への工夫にも拍手です。

SDGs 活動中の雨水活用

MDGsからSDGsへと継続していった活動も通算10年以上になりました。それらの活動の中でも、第6項「水と衛生」について特に関心を持ち、同じ意見を持つ者同士で集まって水について討論を繰り返しながら、今の私達に何が出来るのか考えてきました。

現在実践しているのは、井水70%・雨水30%・上水道0%(ただしいつでも復活できる状態)の利用率維持です。雨水活用については以下コンセプトの下で実践しています。

  1. 自宅敷地に降る雨は全て利用する。
  2. 自然エネルギーだけを利用する。
  3. 持続可能な方法かを常に検証する。
  4. 地球環境の改善に貢献できるか。
  5. 水質・大気の公害防止に考慮しているか。

まず最初に取り組むべきは、自宅に降る雨水をできるだけ多く集めて溜める事でした。これができれば、渇水期でも雨水を利用可能なうえ、必要な時に必要なだけ使えます。

そこで、自宅4階屋上にダムのようなものを造設し、必要な改修を行いつつ活動を始めました。ダムの深さの設定は、建造物強度計算と福井県の年間降水量を参考にして10cmとしました(画像1参照)。そして第1排水口からそのまま2つのタンクに貯水できるように設備を設置(画像2参照)。また、急激な降雨時に備え、第4排水口の深さは15cmにしてオーバーフローとしました。第2と第3排水口は当初閉じておりました。

画像1 屋上の小さなダム
広さ70m2、深さ0.3mの貯水槽にエポキシ樹脂をコーティングし、中央部から四方向に向けて2°の傾斜を付け、65呼径のパイプで第1、第2、第3、第4排水口を取付けました。
屋上の小さなダム

貯水タンク(200ℓ×2)画像2 貯水タンク(200ℓ×2)
第1排水口から雨樋を通して右の満封型ドラム缶と左の開放型ドラム缶に溜めました。オーバーした雨水は、そのまま雨樋を通して地表の溝から河川にと放水されました。

そこからひと月程経ち、屋上ダムはほぼ満水となり、従来から想定していた程度に活用できました。この貯水タンクは当初1階の地表に設置していましたが、コンセプト2「自然エネルギーだけを利用する」とあるように、公共の電気を使わない(ポンプアップしない)ことが条件でしたので、使用とともに水圧が低下すると貯めた分の25%程が使えない状況になってしまうことが判明し、3階のテラスに移動しました。結果、位置エネルギーによって地表バルブ付近(画像3参照)では0.3MPa程度の水圧が生み出され、問題なく利用できるようになりました。

画像3 地表での開閉バブル
中央は4階ダムからのオーバーフロー水と敷地内の雨水が河川に流れ込む構造です。13呼径のパイプと手動バブルは、雨樋の中で二重構造となっています。
地表での開閉バブル

続いて、冬場に向けて融雪ラインの雨水活用に取り組むことにしました。12月になると、貯水タンクからの配管が外気に曝され、中の水が凍結することがありました。そこでこの配管を、65呼径の雨樋の内部へ組み入れる二重構造に変更することにしました。すると、雨樋を通る水と空気の影響で、配管の中での水の凍結問題は解決しました。

冬場、北陸地方の越前市では厳しい気候条件になると、道路上に埋め込まれたノズルから、井水による融雪散水が行われます。私達はここでも雨水を利用して、無駄な散水をなくそうと心掛けました。市の融雪情報が出ると、夕方の17時頃から散水が始まるので私達もこの情報をチェックして、夜20時頃から雨水による融雪を始めます。貯水タンク2つですので、大体翌日の朝6時頃には水を使い切ります。この繰り返しにより、雨水による融雪を実現することができました。ですが、ここには問題がいくつか浮上します。まず貯水タンクの容量問題。もう少し容量があれば、朝8時頃まで十分散水できるのですが現状の容量では難しく、完全な融雪ができません。また、持続可能とも言い難い。そして、当然ですが外気の温度・地表の温度・溜めた雨水の温度にはほぼ差がありませんので、融雪水として使用するにはいまいち不向きなのです。

そこで融雪の効率について調査してみると、例えば外気温が約2度の時、融雪水が5度高い場合は効率が2倍近く上昇し、10度高ければ4倍近くにまでなることが判明しました。この調査をうけて、次の改修を行いました。貯水タンクからの配管パイプを雨樋の中に通していたラインを取り壊し、南側テラスのフェンスに黒塗りの50呼径パイプを11本連結。太陽に向かって並べることで、昼間の太陽熱による温度上昇の蓄熱効果が放熱による損失を上回り、放熱時の断熱に配慮すれば、貯水タンク内の雨水の温度が+5度程度上昇することも確認できました。この改修で融雪速度も速くなり、当初の目的は達成されました。今度はさらに改良を加え、11本のフェンスタンクを60本に増加して、2022年12月に実証実験を行う予定です。

雨水を活用した生活を送る中で一番感じているのは、自然の恵みを多様な場面で、様々な場所・気候の中で意識できるようになったことです。全てのものに対して「もったいない」とか「大切にしなければ」と感じるようになりました。そして他に、経済的な効果。さらには、自身が気象情報に関心を持つようになったおかげで、派生効果で防災意識の向上にも繋がったように思います。

太陽熱利用のフェンスダム画像4 太陽熱利用のフェンスダム
太陽熱を最大限利用する為に、フェンスに取付けた50呼径パイプの連結による20ℓ容量のフェンスダム。温められた水は後方に見える貯水タンクに溜められる。

今後、私達の行った実証実験を参考に、2階建て木造住宅にもこの設備を応用できないかと考えています。