特集コンテンツ雨水を「暮らしの中のいつもの水」に
木村洋子さんの話
「第1回雨水活用レポートコンクール」
最優秀賞
木村 洋子さん
2021年の大雨で溜まった水を掃除や洗濯に活用したのをきっかけに、雨水をそのまま暮らしに取り入れる方法を模索。ミクロフィルター等を用いたシステムをまとめたレポートが、「第1回雨水活用レポートコンクール」で最優秀賞に選ばれました。地域まちづくりボランティアで「地域とまち、人と自然をつなぐ」をテーマに活動中。雨水活用の「ネバーランド作戦」では自宅の設備施工や雨水クッキングを通して身近にある水の恵みを伝えています。(第1回 雨水活用レポートコンクールについて詳しい情報はこちらをご覧ください)
2021年に実施した「第1回雨水活用レポートコンクール」。
「あなたの知恵が、みんなの未来の暮らしへのヒント」をテーマに、雨水を生活水として活用する実践例や意見などを募集したところ、たくさんのレポートが寄せられました。
雨水を今よりもっと日常生活に取り入れるにはどうすればいいか。最優秀賞に選ばれた木村洋子さんに、雨水を暮らしに活用する大切さや思いをお聞きしました。
「雨水を暮らしに活かす」が
ライフワーク
木村洋子さんのレポート「コロナ禍の『雨宿り』暮らしの実験日記」には、大雨でたまった水を、掃除や洗濯、食器洗い、調理などに活用していく経緯が記されています。建築設計の仕事をしている木村さんにとって「雨水を循環資源としてよりよく活かす」ための実験や試行錯誤は、このコンクール以前から続けてきたライフワークでした。
「最初に雨水に触れあったのは、ボランティアとして街づくりに関わった時。緑を植えたり公園整備に携わったりする中で、植物に与える水は水道水でなく雨水が利用できると考え、その大切さを意識するようになったのです」
台湾で開催された「世界国際花博」で庭づくりに取り組んだことも、環境の中における雨水循環を考えるきっかけになった、と木村さん。以来10年以上、建築設備の一環として、雨水の給水タンクを設けるなど、積極的に雨水の活用に取り組んできました。
見逃していた
「生活資源としての雨水活用」
そんな木村さんにとって大きな転機となったのが、2021年に九州地方を襲った大雨でした。雨水=建築設備水としてのイメージから、より身近な「生活資源としての水」へ。「もしかしたら雨水そのものを使えるのでは?と気づいたと同時に、こんな大切なことを見逃していた!と思いました」と木村さん。建築士としての知識や経験を発揮し、自宅に「雨水利用システム」を施工する経緯は、レポートに記されています。
「設備に負荷をかけないようにするためには、雨水タンクに入る段階で、いかに上質な水にできるかが課題なんです。そのため、靴下を3枚ぐらい重ねて雨どいの先に履かせて漉す、といったことやってみることも。花粉や黄砂の時期には効果があるんです。こういうアイデアはたくさん出てくるし、思いついたことはどんどん試してみたいんです」
雨水は汚いという根強い先入観。
身近な「雨水コーヒー」から理解が広がる
日本ではまだ雨水利用が浸透しているとはいえないのが現状です。それについて木村さんは「雨水は汚いという考えが根強いから」と指摘します。
「社会の発展とともに大気汚染が広がり、酸性雨のもととなる光化学スモッグが問題となりました。雨水は汚いものとされ、また近年の大雨による水害も雨水を悪者にしてしまった要因だと思います。でも、問題なのは雨水そのものではなく、空から落ちてくる間に雨が吸収してしまう大気中の汚染物質なんです」
一方で注目したいのは、木村さんの周囲の人たちに雨水利用の意識の高まりが広がっていること。レポートの中で、ごく自然に木村さんの日常に「雨水コーヒー」が登場する様子がうかがえます。
「『雨水で淹れたコーヒーよ』といえば、皆さん面白がってくれて、今では『雨水コーヒー2つお願いします』といってやって来るほど。地域での会合や作業には、バケツにためた水を手洗いや洗い物用として持っていったりもします。こうやって日常的に使うことで雨水がいとおしくなるから不思議です」
科学を正しく知ることが、
雨水をいつもの水、使える水にする
雨水をそのまま生活に使うことに抵抗がある。そんな先入観を払拭するためには「雨の科学を正しく知ること」が必要だと木村さんは話します。
実際に木村さん自身も、雨水コーヒーを飲みに来る人たちに「雨水講義」をすることも。おいしい雨水コーヒーに添えられる、資源としての雨の科学的な知識が、雨水を暮らしに結びつける役割を果たしています。
「雨の科学を知り、雨水の活用を生活科学としてとらえることで、エコ意識につながり、さらには治水や潅水、防災減災にまでつながると考えています。日本は雨が豊かな国ですが、世界的に見れば自由に使える水があるのは決して当たり前ではないのです」
レポートには災害時にはもちろん、日常にも「雨水をいつもの水、使える水にしたい」という思いが綴られています。そしてそれは「安全な水とトイレを世界中に」といったSDGsの目標にも通じています。
TPOに合わせた
雨水の使い分けができる時代へ
環境保全やCO₂削減を目指し、雨水や太陽光など自然を活用することで未来を変えようとするTOKAIの「GQハウス」。その構造と仕組みを見学した木村さんは、雨水利用にもTPOがあると説明してくれました。
「雨水利用には5段階の要素があります。1は雨そのもの。2はフィルターを通した水。3は降り始めの雨をカットしたもので、4は科学的なフィルターでろ過したもの。GQハウスで使われているのが5番目で、飲料にもできる純水です。例えば、散水などに使うには1か2で十分で、災害時には煮沸して使うこともできます。GQハウスの設備は最上級のものですが、すべてが純水でなくても、TPOに合わせて使い分けられれば、もっと一般の人に取り入れられやすくなるのではないでしょうか」
ひと昔前なら一般の住宅への導入がかなわなかった雨水設備も、今後は技術が進み、今よりもっと当たり前に取り入れられるようになってくるはず、とのこと。
「普段の暮らしに、水道のように雨水を使えるようになったら素敵だと思いませんか?」
楽しみながら、空からの恵みを暮らしに活かしている木村さんの言葉から、明るい未来が見えるようでした。
木村 洋子さん
アトリエPAO一級建築士事務所代表。建築の立場から暮らしの改善計画を考え、現在は都市のグリーンインフラ化をライフワークとして研究提案している。福岡県建築士会会員(まちづくり委員)、北九州市都市計画事業折尾土地区画整理審議会委員。「2010台北国際花卉博覧祭国際部門」銅賞受賞(2010年)、「建築学会全国まちづくり大賞」大賞受賞(2012年)。
木村さんが最優秀賞を受賞された
コンクールについて、詳しくはこちら
あなたの知恵を、みんなの未来に。第1回 雨水活用
レポートコンクール