対談|雨水利用の今とこれから ~普段の暮らしに雨水を!〜

対談者の写真
  • 笠井 利浩
    福井工業大学環境情報学部環境食品応用化学科教授
  • 武内 淳
    株式会社TOKAIエンジニアリング本部事業開発推進部

雨水と太陽光による「生活水と電気の完全自給自足の家」を目指したGQハウス。
2011年のスタート以来、このプロジェクトは、現代社会に生きる私たちの
「未来への課題」の解決に少しでも近づけるよう、さまざまな取り組みを行っています。
その中の一つが、雨という自然の恵みを無駄にすることなく生活に活用すること。
SDGsの「自然資源の活用」にも通じる雨水利用は今、
どこまで進んでいるのか、これからどうやって私たちの暮らしに取り入れ、役立っていくのか。
雨水利用研究の第一人者である福井工業大学環境情報学部の笠井利浩教授と
株式会社TOKAI事業開発推進部の武内淳が対談しました。

  • 福井工業大学 環境情報学部環境食品応用化学科 教授笠井 利浩
    京都府生まれ。福井工業大学 環境情報学部環境食品応用化学科教授。日本雨水資源化システム学会 広報委員長/理事。山口大学で資源工学を学ぶ。AIやIoT技術を組み合わせたスマート雨水タンクの研究・開発に取り組む。自動洗浄機能を備えた防災対応型家庭用雨水タンク「レインハーベスト」は2019年度グッドデザイン賞を受賞。
    笠井教授
  • 株式会社TOKAI エンジニアリング本部事業開発推進部武内 淳
    一級建築士。一級建築施工管理技士。2011年よりGQハウス開発に携わる。
    武内

米も生活も、大事な原点は「雨」。 雨水を日常に活用するための出発点

笠井教授

笠井教授 雨水の研究を始めたのは15年ほど前です。最初は食糧自給の面から日本の食文化に欠かせない稲作に取り組もうと考え、実家の裏の田んぼで米を作り始めました。しかし、ある日の夕立で雨宿りしている時にふと、米は水がないとできない、全ての淡水の源は雨であり、もっとも重要なのは雨だと気付いたんです。これが私の雨水研究のスタートです。以来、私は雨水を水源とする給水システムや雨水タンクの開発を行ったりしています。
TOKAIさんのように雨水の利用に取り組まれている企業は珍しいと思うのですが、ここに至るまでにどのようなきっかけがあったのですか?

武内

武内 本社がある静岡県の年間総雨量は約2,300㎜で、国内平均よりも雨が多い地域なのです。それくらい量があるなら、4人家族が雨水だけで十分生活できるのでは?使わないなんてもったいないじゃないか、というのが出発点でした。計算してみると確かに総雨量的には実現可能で、それなら水道というインフラに頼らず雨水だけで暮らせる家や街が作れるのではないか、と考えたのです。
笠井教授は実際に雨水だけで生活する島で、面白い取り組みをなさっていますよね。

対談の様子
笠井教授

笠井教授 長崎県五島列島の赤島ですね。2017年に「五島列島赤島活性化プロジェクト」※1を立ち上げ、学生と一緒に3年かけて雨水を水源とする給水システムを作りました。
私はいずれ、街全体が雨水で生活する「雨水ニュータウン」のようなコミュニティを作りたいという思いがあり、もしかしたら日本に今でも雨水を使っているところがあるんじゃないかと当時インターネットで調べてみたんです。そうしたら赤島がヒットして、1カ月ぐらい後には現地に向かっていました。島の人に話を聞くと、この島には水道設備がなく、全ての生活用水に雨水を使っているけれど、最近はPM2.5による水質の不安があるという。それなら島の水の問題をこちらの技術で解決しようとプロジェクトを始めました。

対談の様子
武内

武内 HPなどを拝見しましたが、すべて手作業、人力で行っているんですよね。

笠井教授

笠井教授 開墾から始まり、雨水を集める「雨畑」の設置、雨水を溜めるタンクの設置のほか、300mにわたって送水管をつなぎました。重機も入らないので、穴を掘るのも配管を埋めるのもすべて手作業です。
ただ、赤島のプロジェクトで分かったのは、水の問題だけではなかったということ。赤島はもともとイセエビの漁場でしたが、年々獲れなくなっていて、今は若い起業家が様々な事業開拓に奮闘しています。その際、未処理の雨水だと法的な水質基準をクリアできない。ですからそこに私たちのシステムが入ることで、ちゃんとクリアできるようにする。ここがとても重要で、人が暮らし続けるためには、経済も回るような総合的な取り組みが必要なんです。雨水の利用から離島振興をはかっているのは、そういう理由です。

雨水を普段の暮らしに使うために、 まず必要なのは固定概念を変えること。

武内

武内 LPガスや都市ガスといったインフラを生業としている当社グループにとって、お客様の安心・安全は大きなテーマです。ですからGQハウス開発においては、飲料水として安全を求める上で、雨水の処理にも取り組んできましたし、「完全に既存のインフラを遮断した暮らし」を想定して、最高水準の浄水方法であるRO(逆浸透膜)方式※2を導入しています。これは、冬場の雨が降らない時期を乗り越えるために、生活排水を純水にして生活用水として再利用するものですが、洗濯やトイレに利用するなら、活性炭で浄化したものも十分使えます。ただ一般的に見たとき「雨水って本当に使えるの?」「使っても大丈夫?」という反応がまだまだ多いのが現状です。

対談の様子
笠井教授

笠井教授 私たちの研究の最終目標は「雨水を使うことが普通の社会」の実現ですが、そこで一番ネックになるのが「雨水って汚い」「使うものじゃない」という固定概念なんですよね。人の気持ちを変えるのは相当大変で、新しい技術の開発よりも難しい。そこが変われば使おうという向きになるし、飲み水はともかく、トイレや洗濯などに使うようにしていくだけで、水資源の節約につながるはずなんです。もちろんそこにも、不純物を含む初期雨水※3をどうカットしていくか、といった課題はあるわけですが、それ以上に大切なのがデザインです。いくらいい技術を作っても、誰も知らなければ意味がない。それを正しく伝えるために、人の心を動かすデザイン性が不可欠だと考えています。それが家庭用雨水タンク「レインハーベスト」や雨水を原料にした「雨水ドリンク」なんです。

家庭用雨水タンク「レインハーベスト」
家庭用雨水タンク「レインハーベスト」
雨水を原料にした「雨水ドリンク」
雨水を原料にした「雨水ドリンク」
武内

武内 グッドデザイン賞を受賞した家庭用雨水タンクですね。これまでにない目を引くデザインですし、雨水ドリンクはその発想に興味をそそられます。SNSでも話題になりましたね。

笠井教授

笠井教授 今の日本のように水道水を当たり前に利用している環境では「自然のために」といった壮大なビジョンを出してもあまり響かないかもしれません。ですから、治水、防災、環境、利水のために雨を貯めて統合的に活かす「蓄雨(ちくう)」という言葉を提唱しています。雨水を溜めて、まずは暮らしの中でそのご利益にあやかりたい。それらが役に立った先に、グリーンインフラ等の公共性の高い、水循環みたいな話につながってくるんじゃないでしょうか。

環境への意識は高まっている。 雨水利用から見えてくる未来のビジョン

武内

武内 我々がGQハウスの開発に着手した頃はまだ、SDGsという言葉もない時代でした。今は小学校でも授業があるほど、ここ数年で環境というキーワードが当たり前になってきています。「もったいない」からスタートしたGQハウスも、環境に優しく持続可能な暮らしへの一つのアクションとしてのポジションになりました。雨水を研究していて、環境への意識が高まってきたと感じられることはありますか?

笠井教授

笠井教授 確実に風が吹いてきていると感じますね。一方で、京都議定書で提示されたCO2の削減目標の頃から、逆にCO2の量が増えてしまったという事実を考えれば、今の生活をこのまま続けていても絶対に達成できないと言わざるを得ません。気候変動や社会の変化のスピードがあまりにも速すぎて、50年後の世界がどうなっているかまったく想像できませんし、根本的に価値観を変える、街の構造を変える、そういうことをしないと厳しいでしょう。雨水の利用というと、非常用にと言われますが、いざというときだけではこういうシステムは広がりません。日常で使って、いざというときにも役立つ。雨水そのものを利用していく暮らしを目指していきたいですね。

対談の様子
武内

武内 私たちも、少しでも雨水に感心を持ってもらいたいと、2022年3月に「雨水活用レポートコンクール」を実施しました。応募が19件もあったことは、私たちにとってはうれしい反応でした。そこでいただいた皆さんからのご意見やアイデアに感化され、これから私たちは初期雨水をカットした雨水利用にチャレンジしてみようと考えています。GQプロジェクトのテーマは「水資源の完全循環」ですが、こちらはRO装置よりもう少しライトな感覚です。初期雨水をカットした水を、トイレや洗濯用に使い、緊急用の蛇口もつけておいて、災害時にはそこから生活用水として利用できる。当社はLPガスを供給しているので、ガスが遮断された時でも煮沸し飲んでも大丈夫、というふうに災害対策にもなるかなと考えています。

笠井教授

笠井教授 これだけ雨水のことに本腰を入れてやっている企業があることは、すごくありがたいです。企業が出てくるということは、たくさんの皆さんに知っていただけるということ。どんどん発信して、広がっていくことを期待しています。

武内

武内 いずれは「お父さん、今日のシャワーは雨水だよ」と、そんな会話が当たり前にできるくらいまで、雨水が日常にとけこめばいいなと思っています。

気候変動等による災害や、局地的な豪雨による被害が話題になっています。環境への意識が高まる一方で、雨水そのものを水資源としてとらえ、普段の暮らしに使うようになるには、まだ少し時間がかかるかもしれません。それでも一歩ずつ、その未来へ、私たちは近づいているはず。「水道の水も、もとは雨水」。まずは身近なところから、雨水について考えてみませんか?

笠井教授と武内
  1. ※1しまあめラボhttp://shimaame.ameyuki-cafe.net/
  2. ※2RO(逆浸透膜)浄化装置...海水淡水化プラントなど世界各地で用いられている技術。安心で安全な水を安定的に供給できる
  3. ※3初期雨水...降りはじめの不純物を含んだ雨
  4. ※  2022年12月にOTSハウスからGQハウスへ名称変更となりました。

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