大口尚孝さんのイメージ

特集コンテンツ雨水と魚と野菜で一つの命の流れを作る

大口尚孝さんの話

「第1回雨水活用レポートコンクール」
雨水活用未来賞
大口 尚孝さん

ご家族の事情をきっかけに、長らく離れていた築43年の実家に転居。2021年冬から取り組んでいる「アクアポニックス」作りの様子をまとめたレポートが「第1回雨水活用レポートコンクール」で雨水活用未来賞を受賞しました。

「第1回雨水活用レポートコンクール」では、雨水を日常に活かすアイデアが全国から寄せられました。
今回、伺ったのは栃木県の大口尚孝さん。「発想がユニークで、これからの未来軸の話として一般家庭でも取り入れていけたらいいもの」を評価する「雨水活用未来賞」を受賞しました。
レポートには、実家の庭の手入れをきっかけに、雨水を活用して魚や植物を育てる「アクアポニックス」にチャレンジする様子が書かれています。雨に対する意識の変化や今後の課題、思い描いているビジョンなどをお聞きしました。

魚を育てながら野菜を栽培する
「アクアポニックス」

栃木県足利市。すぐそばに川が流れ夏空に緑の山々が美しい、自然豊かな環境に大口尚孝さんを訪ねました。「まだ改良しなければならないところがたくさんあるんです」と案内してくださったのは敷地内の倉庫。その東側の壁に「アクアポニックス」が設置されています。
「アクアポニックス」とは、雨水利用とソーラー発電を組み合わせ、魚などの養殖と植物の水耕栽培を同時に行うシステムのこと。「天からの贈り物である雨水と太陽光のやさしさを掛け合わせたユニークな試み」が、今回評価された点でした。
アクアポニックスは大量の水を使うため、物置の屋根に溜まった雨水をといに流してタンクに溜め、太陽光発電機で循環させます。大口さんはYouTubeなどで情報を集め、自ら仕組みを考えて設計。上段と中段にはレタスなどの野菜の水耕栽培、ふた付きのケース内には金魚やメダカを飼っています。

大口尚孝さんのイメージ

動画を参考にDIYを試行錯誤

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高齢の親の病気がきっかけで実家に戻った大口さん。放置されていた庭の手入れをしようとネットで調べていたところ、特に興味を引かれたのがアクアポニックスでした。
「もともと仕事場のある埼玉県のマンションでもアクアリウムを作ったり、ベランダのプランターで家庭菜園をしたりしていました。動物を飼ったり畑を持ったりしたいと思いつつ、環境的には難しくて。熱帯魚の水を換える際には水道水のカルキを抜かなければいけなくて、それなら雨水を利用できないか、ということもその当時から考えていたんです。なので、アクアポニックスを知って、せっかくやるなら雨水を使ってやりたいなと」
アクアリウムの経験から、魚を育てるための知識はあったものの、それと水耕栽培をどう組み合わせるのかが課題でした。
「東南アジアの国々では庭先でみんな普通にやっていて、それを見ると鯉や川魚など大きな生き物を育てながらたくさんの野菜を作っているんですね。でも一人だからそこまで大規模じゃなくていい。一人分の酒の肴になるくらいの野菜を育てるにはどのくらいの規模にすればいいのか。さまざまな動画を見ながら試行錯誤を始めました」

温度管理の難しさを実感。
構造に改善の余地も

アクアポニックスに着手したのは冬の寒い時期。なるべく温かくなるように、倉庫の東向きの壁を黒く塗り替え、プランターを設置。太陽光パネルや発電機、塩ビポンプなど、材料はホームセンターで揃え、思い描いた構造に作り上げていきました。
「作ってすぐの頃は、レタスと小松菜がとてもいい感じで育ったので、成功だと喜んでいました。でもやっぱり、そんなに簡単ではありませんでしたね」
季節が移り、気温が上がり始めた7月に、それらは一斉に腐ってしまいます。その原因について大口さんは「水温が上がりすぎたからではないか」と説明します。
「今も、温度を測って研究中なんですが、暑いときには50℃近くにまでなるんです。雑草にお湯をかけると枯れるらしいから、それじゃないかと」
住まいのある足利市は、伊勢崎、舘林、熊谷など、日本の中でも猛暑になることで知られる地域に囲まれています。一方で冬場は「赤城おろし」と呼ばれる冷たい北風が吹き下ろす場所。寒暖差の激しい環境で、アクアポニックスを続けていくには、一度作った構造をもう一度根底からやり直す必要がある、と大口さん。
「水の流れをどうするか、その経路や水漏れ対策、バッテリーの大きさや温度管理など、やってみて初めて分かったことがありました。まだまだ改善が必要です」

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理想は雨水と魚と野菜だけで
命の流れを作ること

今の環境に暮らし始めてから、雨に対する印象が大きく変わったと、大口さんは話します。
「快適な空間でコンピューターを使って仕事をしていたので、雨といえばうっとうしいものでした。駅に向かう100メートルほどでさえ濡れることを気にしなければならないし、電車に乗ったらほかの人に傘が当たらないように気を配らなければならない。心なしか気分も沈むようでした」
アクアポニックスを作り、水はすべて雨水に頼ることを決めてから、毎朝天気を気にして空を見上げるように。そして雨は文字通り「恵みの雨」になりました。
「雨が降らないからといって安易に水道水を足すのは何か違う気がします。理想は、人工的なものを何も加えず、一つの命の流れ、サイクルを作ること。本当は太陽電池も使わずに、雨水と魚と野菜、それだけで回ってくれるようになるといいですね」
生活にはもちろん水道も電気もガスも使っているけれど、昔の人は大変だったと考えるのが楽しいと思うようになってきました、と笑顔で答えてくれました。

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雨水活用コンクールを機に、
雨水を考えるきっかけにも

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TOKAIが続けているGQハウスの取り組みについて「雨水について真剣に研究している企業があるのかと驚きでした」と大口さん。一方で、雨水の利用がまだまだ身近ではないことについては「自分自身もこれまではあまり興味を持っていなかった」といいます。
「日本は水道で簡単に水が手に入るし、おいしいですよね。雨が降らず水不足だというニュースも時々出るけれど、それはもっとマクロな意味での雨水供給の話で、個人レベルで雨水を使うのはまだまだ未知の部分です。私もアクアポニックスをやってみて初めて、雨水や天候がこんなに面白いと知ったんです」
そういう意味でも、一般の人が雨水について考えるきっかけになる、このようなコンクールは積極的に続けてほしいと話します。
「参加しやすいし、他の人の作品を参考にできる。自分もやってみようと思う人が増えるといいなと思います」
今後の目標は?との質問に「ここで喫茶店をやりたいんです」
「いずれは喫茶店を」という夢を長年あたためていた大口さん。大改装中の室内には、以前楽しんでいたアクアリウムを設置し、家の中に引き込んだ雨水を使う予定です。熱帯魚を飼う時に発生する熱は「せっかくなら豆を作ってみたい」と苗から育てているコーヒーの木にも流用。
水からコーヒー豆まで、大口さんのもとで循環する「大口家産」のカフェが実現する日も近いかもしれません。

大口 尚孝さん

グラフィックデザイナーとして事務所を運営する傍ら、栃木県の実家でアクアポニックスを製作。チャボや猫を飼い、野菜を育てる。YouTubeで庭の様子やアクアポニックスの製作風景などを発信中。

大口さんのYoutubeチャンネル

大口さんが雨水活用未来賞を受賞された
コンクールについて、詳しくはこちら

あなたの知恵を、みんなの未来に。第1回 雨水活用
レポートコンクール

アクアポニックス…魚などの養殖を意味する「Aquaculture(アクアカルチャー)」と、土を使わずに植物を育てる水耕栽培の「Hydroponics(ハイドロポニックス)」を合わせた造語で、魚や貝と野菜などを一緒に育てる、新しい循環型システムとして世界中で注目されている。

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