あめについて知る あまみずを暮らしに

天から降る恵みの水という意味をこめて「天水」とも言われる雨水は、
古くから人々の生活を支え、作物を育み、命をつなぐものとして大切にされてきました。
蛇口をひねれば水が出る便利な生活のなかで私たちがいつしか忘れてしまった自然の恵み。
その価値をもう一度見つめ直し、暮らしをより豊かにする雨水利用を始めてみませんか。

01世界各地の
雨水利用事情

世界では、多くの国々が水資源の問題を抱えており、各地で水をめぐる紛争や対立が続いています。世界人口の増加に伴って、水の使用量が増え続けているとともに水質汚染も加速。気候変動の影響なども加わり水不足は今後さらに深刻化し、2025年には28億人が、2050年には世界人口の4割以上にあたる39億人が水ストレスにさらされると予測されています。

水は命の源。貴重な水資源を守っていくため、世界各国で現在さまざまな取り組みが進められています。そのひとつが、雨水利用。降水量の少ない地域や水道設備の整っていない地域をはじめ、世界の国々で雨水は大切な天然資源として活用されています。

※水ストレスとは...
人口一人あたりの年間使用可能水量が最低水準である1,700m3を下回り、水不足により日常生活に不便を感じる状態のこと。

水ストレスにさらされる国々(2025年予測)

水ストレスにさらされる国々(2025年予測)
※出所:
国連環境計画(UNEP)
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ハワイ

火山の噴火によってできたハワイ諸島には、火山や硬い岩盤などのため水道管の敷設が難しく、また川が少ないために、公共の水道が普及していない地域がたくさんあります。そのため多くのコミュニティでは自宅の敷地内で雨水をため、飲用を含めた生活用水に使用しています。一般的に使われているのは、家の屋根などから雨水を集め、濾過してから大きなタンクにためる「キャッチメント」という設備。水道普及率の低いハワイ島では人口約15万人のうち推定3~6万人がこの方法で雨水を利用しています。

ドイツ

年間降雨量が日本の半分しかないドイツは、雨水利用の先進国です。世界に先がけて法制化が進められ、多くの自治体で、敷地から流出する雨水に対して処理料金を課すことで雨水利用を促進しています。また、ドイツ工業規格で基準を定めることにより、関連する製品や技術も発展。さらに、高層ビル群や住宅街の敷地全体で雨水を管理し循環させるなど、地域全体で雨水利用をシステムとして構築するプロジェクトも進められています。

オーストラリア

オーストラリアは年間を通して降水量が少なく、南極をのぞいて世界一乾燥した大陸といわれています。そのため、水はとても貴重な資源。クイーンズランド州やニューサウスウェールズ州などでは、新築住宅に雨水タンクの設置を義務づけるとともに、既存住宅についても購入費用を補助することで雨水利用の促進を図っています。さらに、上下水道が整備されていない地域では、雨水を利用して生活排水を敷地内で浄化することが義務づけられているところもあります。
一方でタスマニア島は、強い偏西風の影響で1年の半分は雨が降る、水に恵まれた地域。世界で最も空気がきれいだといわれており、雨水は日常的に飲用されているほか、ボトルに詰めて飲み水として販売されています。

韓国

水不足の国でありながら、集中豪雨などによる浸水被害にも悩まされている韓国。毎年捨てられる雨水の量が水資源全体の4割以上にのぼるため、雨水を活用した水資源確保が課題となっています。そうしたなかで、国や自治体は雨水利用に関する法令や指針を整備。これに応じて産学官連携による取り組みが推進され、雨水をより多くためていつでも使えるようにする技術の開発が進んでいます。雨水管理技術の特許出願件数は2005年から2014年までに約2倍近く増加。降雨状況に応じて雨水管理を随時コントロールできる技術なども開発され、水資源の確保だけでなく都市型水害への対策としても注目されています。

02日本の雨水利用事情

日本で雨水利用への取り組みが始まったのは1960年代。そして、1978年の福岡渇水に代表される渇水の頻発をきっかけに、1980年代から全国的に本格的な導入が図られるようになりました。2020年現在、雨水利用施設数は全国で少なくとも4,000余り。雨水年間利用量は約1,241万m3で、全国の水使用量の0.01%に相当します。

しかし、水道普及率が約98%(2020年現在)と高い日本では、公共施設や大規模民間施設では雨水利用が進む一方、一般住宅における普及率はまだまだ低いのが現状。雨水利用への取り組みが積極的に進められている墨田区においても、雨水タンクを設置している戸建て住宅は全体の1.3%程度にとどまっています。

日本では「雨水の利用の推進に関する法律」が2014年に施行されました。これは、地方自治体の助成制度を国が財政支援することなどを骨子に、雨水利用を推進するとともに下水道や河川等への集中的な流出を抑制することを目的としたもの。これにより各地域で民間住宅においても雨水利用に関する助成制度が設けられてきており、今後の進展が期待されます。

雨水利用施設数の推移

雨水利用施設数の推移
国土交通省水質源部調べ(令和2年度末現在)
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雨水年間利用量の推移(雨水利用方式)

雨水年間利用量の推移(雨水利用方式)
国土交通省水質源部調べ(令和2年度末現在)
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コラム 東京都墨田区は雨水利用の先進地

東京都墨田区は、海抜ゼロメートル以下の場所が多くあり、昔から川の氾濫などによる水被害に悩まされてきた地域。その対策として、1980年代から区を挙げて雨水利用の取り組みが進められてきました。条例で大規模な建築物に雨水タンクの設置を義務づけているほか、民間施設や一般住宅への敷設には助成制度も。路地には「路地尊」と呼ばれる雨水タンクが21か所も設置され、地域住民の生活用水として散水等に利用されています。東京スカイツリーや両国国技館をはじめとする大規模施設、一定規模のマンションやビル、一般家庭なども合わせると、区内には700を超える雨水利用施設があり、その貯水量は25,000m3以上。街なかの小さなダムとして、水資源や災害対策に大きな役割を果たしています。

03雨水利用のメリット

たとえば東京都では、1年間の水道使用量が約20億m3なのに対して降雨量は約25億m3。都内にあるすべての戸建て住宅が屋根に降った雨をためたとすると1億3,500万m3が確保できる計算となり、これは都に水を供給している利根川水系の八ッ場ダムにおける有効貯水量を大きく上回ります。しかも、東京都の主な水源である利根川、荒川、多摩川などの河川水よりも、雨水のほうがはるかにきれいなのです。
流せば洪水、ためれば資源。雨水利用にはさまざまなメリットがあります。

雨水利用のメリット

水資源の有効活用

水は限りある貴重な資源。雨水を有効に利用することで、大切な水資源を守ることができます。
現在、水道使用量の多くを占めているのが、家庭での生活用水です。家庭で使われる水の量は一人1日あたり214Lで、そのうち、おふろとトイレ、洗濯での使用量が合わせて76%。それらを雨水でまかなえば、かなりの量の水資源を確保できる計算になります。また、各家庭で貯水することにより、山々の自然を破壊するダムの建設も不要に。ダム依存からの脱却は、きれいな水を育む森林環境を保護し、健全な水循環を守ることにもつながります。

都市型洪水対策

近年、都市部で大きな問題となっている洪水被害。集中豪雨などが引き起こす浸水により、多くの命や財産が失われています。
雨水利用は、降った雨をタンクにためることで都市型洪水の軽減に大きく貢献するもの。現在も多くの自治体が治水事業の一環として、雨水タンクの設置を推進しています。

災害対策

大震災などの災害が起こると、水道管の破裂などで水道が使えなくなることがあります。そんな断水時の備えにもなるのが雨水利用。雨水をためておくことで、いざというときも生活用水や初期消火などに活用することができます。また、濾過および煮沸をすることで緊急用の飲料水にも。災害対策としての雨水利用は、阪神・淡路大震災や東日本大震災をきっかけに大きく注目されるようになりました。

コラム 雨水 vs. 水道水

純水に近い雨水と、塩素などを含む水道水。
飲用に使える水道水に比べて雨水は汚いといったイメージを持たれがちですが、
実は生活用水として優れた面を持っているのです。

洗濯:雨水のほうがよく泡立つ!

雨水と水道水、さらには硬度の高いミネラルウォーターのなかで、実は一番洗濯に向いているのが雨水。せっけん成分の泡立ちを悪くしてしまうミネラルが含まれていないため、少量でよく泡立ち、すすぎの水も少なく済みます。

雨水と水道水
左:雨水 右:水道水

散水:植物は雨水のほうがよく育つ!

厳しい基準をクリアした日本の水道水は、植物の栽培に使用しても大きな問題はありません。しかし、水道水に含まれる塩素が植物の生育に悪影響を与えることも。また、硬水であるミネラルウォーターは、浸透圧の関係で植物にとっては吸い上げにくい水といえます。自然環境においては、多くの植物は雨水によって育つもの。塩素などの成分を含まず、軟水である雨水は、水やりに最も適した水です。特に雷雨には通常の雨水に比べて、葉や茎の生育を促す窒素が多く含まれていることが証明されています。

洗車:車のボディにとっては雨水のほうがよい!

水道水に含まれるカルシウムやマグネシウムは、白い水滴跡の原因となり、これがひどくなると塗装面を傷めてしまいます。ミネラル分を多く含む井戸水も同様。蒸留水に近い雨水は、洗車にもぴったりです。

04今すぐできる
雨水利用アイデア

雨水利用の第一歩は雨水をためること。ごく簡単なものでは、たて樋に切り込みを入れて取水する方法(特定非営利活動法人 雨水市民の会では便利な取水器『レインキャッチ』を販売:https://www.skywater.jp/archives/2279)、集水ネット(https://www.amehanet.com/)やブルーシートを張って雨水を集めるといった方法があり、すぐに雨水利用を始めることができます。後者は集合住宅や賃貸、屋外でも設置しやすい方法です。

また、ポリバケツなど身近な材料で雨水タンクをDIYすることも可能。その際は、オーバーフロー(水があふれること)を避けること、光が入らないよう密閉して藻やボウフラの発生を防ぐこと、たまった泥を定期的に取り除けるようにすることなどに注意しましょう。

ちなみに、雨水タンクにはさまざまな種類がありますが、家庭で散水などに利用する場合、容量は200~300L程度が一般的といわれています。費用は3~5万円程度。雨水タンクの設置には多くの自治体で助成制度があります。

今すぐできる雨水利用アイデア
木村洋子さん

雨水活用レポートコンクールから...

TOKAIが2022年2月から3月にかけて実施した「第1回 雨水活用レポートコンクール」。「雨水コーヒー」などユニークなアイデアで最優秀賞を受賞した木村洋子さんにお話を伺いました。

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